人材紹介の契約書の雛形と注意点【印紙・返金条項つき】
ROSTER 編集部/公開:
契約・手数料 / 法定業務
有料職業紹介事業者が求人企業と結ぶ人材紹介の基本契約書について、入れる条項と法令上の根拠、そのまま手直しして使える条文の雛形、収入印紙が要るかどうか(契約書・領収書・電子契約)を、職業安定法・業務運営要領・印紙税法と国税庁の通達をもとに整理しました。2025年4月に加わった違約金等の明示にも触れています。
この記事のポイント
- 人材紹介の
基本契約書は 委任に あたると 整理され、 収入印紙は 要らないと されるのが 一般的です。 - 紙の
領収書は 受取額が 5万円以上なら 印紙税が かかり、 消費税等を 分けて 書けば 税抜で 判定します。 - 直接採用時の
手数料などの 金額と 条件は、 書面か メールで 前もって 求人企業に 示します。
人材紹介の基本契約書には、成約の時点、手数料の計算のもと、支払期日、早期退職時の返金、紹介した人を直接採用したときの扱いを書きます。料率は、届け出た手数料表の範囲に収めます。基本契約書そのものには、収入印紙は要らないと整理されるのが一般的です。
迷いやすいのは、「印紙は本当に要らないのか」「法令で決まっていることと契約で自由に決めることの境目」「2025年4月に加わった違約金等の明示」の3点です。この記事では、条文の雛形を示し、架空の事業所AとB社の1件で手数料と領収書の印紙を計算します。
職業安定法(以下「法」)・同施行規則(以下「規則」)・民法・印紙税法は e-Gov 法令検索の現行版、運用は厚生労働省の職業紹介事業の業務運営要領(令和8年10月版。以下「要領」)と国税庁の通達・質疑応答事例を下敷きにしました。2026年11月7日に読み直しています。契約書は法律判断を含みます。実際に使う前に、弁護士に確認してもらってください。
早見表:契約書に入れる条項と根拠
| 条項 | 法令で決まっていること | 契約で決めること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 手数料 | 届け出た手数料表(または上限制)の範囲でしか受け取れない | 料率、計算のもとになる年収、最低額 | 法第32条の3第1項 |
| 求職者からの手数料 | 原則として取れない | ― | 法第32条の3第2項 |
| 手数料を受け取れる時期(届出制) | 求人の申込みを受けた時以降 | 請求日と支払期日 | 要領 第6の1(4)イ |
| 求人の労働条件 | 求人企業は申込みのときに紹介事業者へ明示する | 明示の方法と変更時の連絡 | 法第5条の3第2項 |
| 返金 | 制度を設けることが望ましい。設けたら明示・公開する | 期間、率、除外する事由 | 要領 第9の5(4)ロ、規則第24条の5 |
| 取扱職種の範囲等・苦情処理・個人情報の扱い | 求人企業に明示する | 契約書に書くか別紙で渡すか | 法第32条の13、規則第24条の5第1項 |
| 違約金など求人企業が払うお金 | 金額・条件・解除方法を前もって書面やメールで明示する | 直接採用時の手数料、解約の方法 | 要領 第9の5(8)ニ |
| 紹介した人への転職の勧め | 無期雇用で入社した人には、入社から2年間してはならない | 契約にも書いて安心材料にする | 要領 第9の5(4)イ |
職業安定法に、求人企業との契約書を必ず作れという条文は見当たりません。それでも、明示しなければならない事項が多いので、基本契約書と別紙にまとめて渡すのが確実です。
印紙は要るか(契約書・領収書・電子契約)
| 文書 | 印紙 | 理由 |
|---|---|---|
| 人材紹介の基本契約書(紙) | 要らないと整理されるのが一般的 | 委任(準委任)で、請負(第2号文書)にも継続的取引の基本契約書(第7号文書)にもあたらない |
| 紙の領収書(受取書) | 受取額が5万円以上なら要る(消費税等を分けて書けば税抜で判定) | 売上代金の受取書(第17号の1文書) |
| 銀行振込だけで領収書を出さない | 要らない | 文書を作っていない |
| PDFの契約書・領収書をメールで送る | 要らない | 電磁的記録は課税される文書に含まれない |
基本契約書に印紙が要らないとされる理由
印紙税がかかる契約書は、印紙税法の別表第一に並ぶものだけです。人材紹介に関係しそうなのは、第2号文書(請負に関する契約書)と第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)の2つです。
請負は、仕事を完成させ、その結果に報酬を払う契約です(民法第632条)。人材紹介は、求人企業から人探しの事務を任される準委任(民法第656条で委任の規定を準用)と読むのが一般的で、採用が決まったときに払う成功報酬は「成果に対する報酬」(民法第648条の2)の型と読めます。国税庁の通達は、この形の委任は請負に該当しないと明記しています(印紙税法基本通達 第2号文書の1)。
第7号文書になるのは、売買・売買の委託・運送・運送取扱い・請負などの取引を続けるための契約書です(印紙税法施行令第26条)。職業紹介の委託は、この一覧に入っていません。
ただし、国税庁の通達や質疑応答事例で、職業紹介の契約書を名指しで扱ったものは見つけられませんでした。求人広告の制作など、仕事の完成を約束する業務を同じ契約書に入れると、その部分が請負と見られることもあります。迷ったら、契約書の案を持って所轄の税務署に確かめてください。
領収書は5万円の線と消費税の書き方
紙の領収書は、売上代金の受取書として第17号の1文書にあたり、受取額が5万円未満なら非課税です。100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円、200万円超300万円以下は600円と、金額で税額が変わります(印紙税法 別表第一 第17号)。
消費税等の額を分けて書けば、税抜の額で判定します(国税庁 タックスアンサー No.7124)。「税込」とだけ書くと、税込の額で判定されます。消費税の免税事業者は、分けて書いても税込の額で判定される点に注意が要ります(同)。一方、PDFの領収書をメールで送るだけなら、印紙税はかかりません。電磁的記録は課税される文書に含まれず(国税庁 質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」)、領収書を電子メールで出す場合も課税原因は生じないとされています(福岡国税局 文書回答事例)。
基本契約書の雛形
甲を求人企業、乙を紹介事業者とした条文の例です。【 】は架空の例で、推奨する数字ではありません。返金の条項は長くなるので、返金規定の雛形を第6条に差し込んでください。
人材紹介基本契約書
第1条(目的)甲は、乙に対し、甲の求人に適した求職者の紹介を委託し、乙はこれを受託する。
第2条(求人の申込み)甲は、求人の申込みにあたり、従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件を書面または電子メールで乙に明示する。内容を変えるときも同様とする。
2 乙が求人の申込みを受理するかどうかの確認のため報告を求めたときは、甲は、正当な理由がない限り応じる。
第3条(紹介)乙は、甲の求人に適すると判断した求職者を、本人の同意を得たうえで甲に紹介する。採否は甲が決める。
第4条(紹介手数料)甲は、乙の紹介した求職者を採用し、その者が甲に入社したときは、乙が厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づき、入社日に紹介手数料を負うものとする。
2 紹介手数料は、内定通知書または労働条件通知書に記載された年収(基本給、賞与その他の手当の見込額の合計。通勤手当を除く。)に【35】%を乗じた額に、消費税等相当額を加えた額とする。
第5条(請求と支払)乙は、入社日以降に請求書を発行し、甲は、入社日の属する月の翌月末日までに、乙の指定する口座へ振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
第6条(早期退職時の返還)(返金規定の条項を入れる)
第7条(紹介した者の採用)甲が、乙から紹介を受けた日から【1年】以内に、乙を介さずにその者を採用したときは、乙の紹介による採用とみなし、第4条を適用する。
第8条(転職の勧奨の禁止)乙は、その紹介により甲に期間の定めのない労働契約で入社した者に対し、入社日から2年間、転職を勧めない。
第9条(秘密保持と個人情報)甲は、乙から受け取った求職者の個人情報を採否の判断にだけ使い、不採用となったときは、乙の求めに応じて返却または廃棄する。
第10条(反社会的勢力の排除)甲および乙は、自らが暴力団員その他の反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証する。
第11条(有効期間と解約)本契約の有効期間は締結日から【1年】とし、期間満了の【1か月】前までにいずれからも書面または電子メールで申出がないときは、同じ条件で1年更新する。
2 甲または乙は、【1か月】前までに書面または電子メールで通知して、本契約を解約できる。解約前に紹介を受けた者には、第4条から第9条までを引き続き適用する。
条項ごとの注意点
料率と年収の書き方は手数料表にそろえる
法第32条の3第1項は、手数料表などに基づくもの以外は「いかなる名義でも」受け取れないとしています。契約書の料率が手数料表より高い、または手数料表に無い名目のお金を取る書き方になっていると、それだけで問題になります。第4条第2項の「年収」の定義は、届け出た手数料表の書き方と一字一句そろえるくらいでちょうどよいです。
最低額(「年収にかかわらず最低○万円」など)を入れるなら、手数料表にも同じ定めがあるかを先に確かめます。上回る特約は書けません。様式例の注は手数料表の額を「限度額」と説明しているので、表を上限の書き方にしてあれば、下回る率で結ぶことは表の範囲内と読めます。企業ごとに率を変えるなら、変える理由を説明できるようにしておくと安心です。
直接採用の条項は「前もって書面で」示す
2025年4月1日から、要領に「違約金等の契約内容の明示」が加わりました(要領 第9の5(8)ニ)。求人企業が負担するお金について、金額・発生する条件・解除方法を、書面か電子メールで前もって示すことが求められています。
名前が違約金でなくても対象です。第7条のような直接採用時の手数料や、解約の方法もこれにあたると読めます。第7条の手数料が、届け出た手数料表のどの区分にあたるかも確かめておきます。口頭の説明や、自社サイトの該当箇所を教えるだけ、規約をスクロールさせて同意ボタンを押させるだけでは、適切な明示にならないと要領は書いています。契約書をPDFでメールし、相手の手元に同じ文面が残る形にしておきます。
求人企業に明示する5つの事項は別紙にまとめる
求人の申込みを受けたら、速やかに求人企業へ明示する事項があります。取扱職種の範囲等、手数料、苦情の処理、求人者の情報と求職者の個人情報の扱い、返戻金制度の5つです(法第32条の13、規則第24条の5第1項・第2項)。
方法は書面の交付が原則で、相手が希望すればFAXや電子メールでもかまいません(規則第24条の5第2項が引く第17条の7第2項の方法)。基本契約書の別紙として手数料表・返戻金制度・苦情の窓口・個人情報の扱いを1枚にまとめると、契約のたびに漏れなく渡せます。
返金の率は公開している内容と合わせる
返戻金制度は、手数料表などと一緒に掲示かサイトで公開します(規則第24条の5第4項)。企業ごとに率を変える特約を結ぶ場合も、公開している内容より不利な率を契約に書くと、求人企業から説明を求められたときに困ります。
計算例(架空の事業所A)
架空の事業所Aが、B社(架空)と2026年12月1日(火)に基本契約を結びました。料率は35%、支払期日は入社月の翌月末です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 紹介した人の年収(内定通知書の額) | 5,600,000円 |
| 紹介手数料(税抜) | 5,600,000円 × 35% = 1,960,000円 |
| 消費税等(10%) | 196,000円 |
| 請求額 | 2,156,000円 |
| 入社日 | 2027年4月1日(木) |
| 支払期日 | 2027年5月31日(月) |
B社が振込で払い、領収書を出さなければ印紙は要りません。B社から紙の領収書を求められた場合は、書き方で印紙の額が変わります。
- 「うち消費税等196,000円」と分けて書く:記載金額は1,960,000円で、印紙は400円
- 「2,156,000円(税込)」とだけ書く:記載金額は2,156,000円で、印紙は600円
- PDFの領収書をメールで送る:印紙は要らない
基本契約書は、紙で2通作って双方が持っても、印紙は貼りません(前の節の整理による)。
求人企業のひな形で結ぶときの確認
大手の求人企業は、自社のひな形を出してくることがあります。署名する前に、次の5つを見ます。
- 料率と年収の定義が、届け出た手数料表の範囲に収まっているか
- 返金の期間と率が、公開している返戻金制度と大きくずれていないか
- 求職者から手数料を取る書き方になっていないか(法第32条の3第2項)
- 求職者の個人情報を、採否の判断以外に使える書き方になっていないか
- 紹介事業者に重い損害賠償を負わせる条項がないか
最後の2つは法令で決まっていない部分で、交渉で決めます。判断に迷う条項は、弁護士に見てもらうのが確実です。
よくある質問
基本契約を結ぶ前に、求職者を紹介してもよいですか
法令上、契約書を交わすことは紹介の条件になっていません。ただし、手数料などの明示は申込みを受けたら速やかに行う必要があり(規則第24条の5第2項)、直接採用時の手数料などは前もって示しておく必要があります。少なくとも別紙の明示事項と料率をメールで送ってから紹介するのが安全です。
電子契約サービスで結べば、印紙はどうなりますか
基本契約書はもともと印紙が要らないと整理されるので、電子でも紙でも変わりません。差が出るのは領収書です。PDFをメールで送るだけなら印紙はかかりません(国税庁 質疑応答事例)。紙の現物を相手に渡せば課税文書を作ったことになり、PDFの送信ならならない、という整理は福岡国税局の文書回答事例(注文請書の例)にも出てきます。
個別の求人ごとに契約書は要りますか
基本契約書で共通の条件を決めておけば、求人ごとの条件(料率の特約など)は、求人票や条件確認のメールで足りることが多いです。料率を変えるなら、変えた内容をメールで残しておきます。
参考にした資料
- 職業安定法 第5条の3・第5条の6・第32条の3・第32条の13(e-Gov 法令検索)
- 職業安定法施行規則 第17条の7・第20条・第24条の5(e-Gov 法令検索)
- 民法 第632条・第643条・第648条の2・第656条(e-Gov 法令検索)
- 印紙税法 第2条・別表第一、印紙税法施行令 第26条(e-Gov 法令検索)
- 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」令和8年10月版 第6・第9(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001756229.pdf)
- 国税庁「印紙税法基本通達 第2号文書」(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/betsu01/03.htm)
- 国税庁 タックスアンサー No.7105「金銭又は有価証券の受取書、領収書」・No.7124「消費税額等が区分記載された契約書等の記載金額」
- 国税庁 質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/02/10.htm)
- 福岡国税局 文書回答事例「注文請書の現物の交付がなされない場合の印紙税の課税関係について」(https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/02.htm)
